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●KQUEST COLUMN 2007

See you 前編


 甲高い子供の嬌声が、体育館の中に何度となく響き渡っていた。
 不規則な叫び声の波状攻撃を戒めようとする先生と、エネルギーを持て余した小学生。彼らが織り成す元気の“かたまり”は、打ち上げ花火のように空中に飛び上がり、止め処なく爆発し続けた。
 小学生ばかりのブラスバンドが演奏を始めたのは、そんな時だった。「県内のコンクールで演奏したばかり」だという“タッチ”が、力強く場内に流れ始めた。奇しくもそれは、“本日のゲスト”が“現役の小学生”だった当時、夢中になっていたアニメの主題歌だった。やがてゲストが姿を現すと、大人も子供も、背伸びをするように立ち上がった。彼らの視線の先に立っていたのは、大洗小学校の卒業生、ニューヨーク・ヤンキースの井川慶である。
 顔一面に笑みを湛えた井川は、子供たちが作った大きな花の輪を潜るようにして、ゆっくりと入場してきた。
「おかえりなさーい」と、可能な限り声を合わせて叫んだ子供たちに、彼は笑って「ただいま」と応え、ペコリとお辞儀をした。
「メロディーは覚えていますね。さすがに歌詞までは全部覚えていないけど」
 と井川。懐かしい校歌を聞くまでもなく、小学校時代の思い出は彼の中に今も鮮明に残っていた。
「グランドの向こうに山があったでしょ? 子供の頃はあそこでターザンごっことかしていたんです。横の池ではザリガニをとったりして……」
 ターザンごっこ、という言葉を久し振りに聞いた。というか、そんな言葉が今でも実際にあるとは思わなかった。しかし、会の最中、そんな井川の言葉を聞いた子供たちの中には、「(自分たちも)やっている」と元気に手を挙げた者もいた。グランドを隔てた向こう側に今でも存在する小さな山を駆け上がったのは、きっと井川や今の在校生だけではないのだろう。それは大洗町の子供たちに受け継がれている、素朴で伝統的な遊び方だったのかも知れない。
「子供の時ってそんなもんじゃないですか。他にやることもなかったですしね」
 その言動が控え目であるためだろうか、TVゲームやアニメなど、どちらかと言えば内向的な、自然とはあまり関係のない“遊び”に結び付けられてしまう井川だが、彼のルーツは間違いなく、野にあった。小さな山の斜面を駆け上がり、木に登り、そして、飛び降りた小学生の井川。自由な時間があまりなかったという、このオフの井川とは対照的だった。
「……疲れているというか、とにかく眠たいです。オフになって、ゆっくり休んだ日なんてないですからね。サインするだけでも時間が潰れていきますし」
 井川の自宅には、山積みになった色紙の山があった。彼は暇さえあれば、その山を削り取るようにサインを書き続けていた。
「考えている暇なんて、ないですよ」
 井川はぶっきらぼうにそう言った。英語でのサインは考えたのか? という問いに対する答えだった。手馴れたサインは、かつての恩師に考えてもらった漢字のままだった。変わったことといえば、その横にカタカナで「ニューヨーク・ヤンキース」と書かれている部分だけである。

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